『超常現象 科学者たちの挑戦』 [本]
NHKスペシャルのスタッフが番組を本に再構成したもの。取り上げているのは心霊現象と臨死体験、超能力で、UFOは取り上げていない。
取材先のイギリスの風景の長々とした描写やスタッフの個人的な感想が多くて、特に前半の文章は無駄が多い。客観的な事実だけでまとめれば新書サイズの分量に収まったのではないかと思う。
マーガム城の幽霊の目撃証言をパレイドリア効果(壁のシミなどを幽霊と見間違える)で説明したりしているが、何だか拍子抜けという気がする。シミュラークルとどう違うのか。
それにマーガム城の一例だけで一般化できるものではもちろんないし、目撃者が地元であった殺人事件を自分の錯覚と結びつけたのなら、目撃者のすべてが地元出身者なのか検証する必要もあっただろう。それに椅子がひとりでに動いたという現象はまったく検証していない。「検証番組ではなくドキュメンタリー」といえばそれまでだが、それは逃げだという気がする。
臨死体験の話では、臨死体験をした人物が幽体離脱をしたというところで、「妻が前かがみになって子供に何かしているのが見えた」と語るが、実際に妻は子供の顔にペイントしていたという。しかし妻子持ちの男性が妻子の夢や幻を見るのはごく自然なことだし、子供に対して母親が前かがみになるというのもありふれた光景で、これで「幽体離脱」とまで行くのはいかにも苦しいと思う。
生まれ変わりの子供の話も、アメリカのある少年が自分の前世は俳優だと主張し、少年と「前世」とされる1930年代の俳優との間には数多くの共通点があったとしているのだが、229項目の前世に関する発言のうち、161項目は調査できず、68項目は調査可能で、うち54項目が「一致」したとしているのだが、これもどうなのか。
一致したとされる項目のうち、「船で世界旅行した」「豪華客船できれいな女性と踊った」というのは1930年代の話としてはごくありふれたものだし、「友達の俳優がタバコのCМに出演した」というのも俳優ならよくある話だろう。「ブルーベリーが好き」「中華料理が好き」「猫が嫌い」「ピアノを持っていた」「家はレンガの壁」「メイドを雇っていた」「恋人をよく浜辺に連れて行った」という項目もそれこそありふれたもので、これなら一致する人はごまんといたはずだ。
そもそもこの8歳の少年は、「前世」とされる人物を特定するために両親がいろいろな人物のファイルを見せ続けており、いろいろな人間の情報があらかじめ刷り込まれているから、記憶が混乱して都合よく組み替えられた可能性もあるだろう。これをもって「驚くべき一致」というのは言い過ぎという気がするが、そもそも調査できなかった161項目はどうなっているのか。これがすべて外れたとしたら、「一致」した項目は4分の1以下で、それも「ブルーベリーが好き」云々のたぐいである。
日本の生まれ変わり少年の話ものせてあるが、この少年は3歳頃から自分の前世はエジンバラのイギリス人だと主張し、鉄道事故のニュースが流れた折に、(前世の)自分が死ぬ少し前にイギリスのサウスウォールでも鉄道事故があったと言って両親を驚かせたというのだが、これも少年の記憶違いではないのか。テレビのニュースで「1997年にイギリスのサウスウォールでも同様の鉄道事故がありましたが…」とアナウンサーがしゃべったのを聞いていただけとか。
少年の両親はわざわざエジンバラまで息子を連れて行ったという。滞在はたったの4日間だったが、「手掛かりは得られなかった」という。これも何だかおかしな話だと思う。前世の記憶を頼りに街を歩けば、前世の生家ぐらいにはたどり着けそうな気もするが。
ユリ・ゲラーの話はもう論外という感じもするが、わざわざ部屋のテーブルの上に並べて置いたスプーンを曲げて見せたというくだり、スプーンに仕込んでおいただけというのはスタッフも行く前からわかっていたという。ジェームズ・ランディがもう何十年も前にすべてトリックを解き明かしているのに、またイスラエルまで取材に行ってユリ・ゲラーに露出の機会を与えるというのは理解に苦しむ。
アメリカの「超能力スパイ」が写真を透視できるかという実験の話は比較的おもしろかった。しかし結果はそれこそ「かすりもしない」もので、ほとんど一枚も当たらなかったというのだが、さもありなんである。そもそもこの「超能力スパイ」、戦時中に「危ない!」とビビッときて仲間を連れて逃げ、命拾いしたことが何度もあったというのだが、単に用心深いだけではないのかと思う。
テレパシーをfMRIで検証したという章も、「テレパシー」で通じ合ったとされる被験者の脳の視覚野の活動には「同期現象」が起きたというのだが、これもどうなのか。197ページにそのグラフがのっているが、5分間のジグザクの波形が「ほぼ一致」というのはこじつけだろう。6回の点滅画像の区間のうち、ピッタリ波形が一致していると言えるのは3、5、6回目で、残りの1、2、4回目はむしろずれている。
そもそも脳の活動には周期性があるのではないか。脳活動の結果生じる微弱な電気を記録したものが脳波で、波というからには周期性があるから、5分間の間に弱まったり強まったりをくり返すのではないか。そのうち3回が「ほぼ一致」したぐらいで「テレパシー」というのもやはり誇張で、「1時間ほとんど点滅画像を見せなかったのに、そのうちランダムに時刻を選んで見せた1分間だけ、相手の脳波が飛び上がった」というぐらいでないと、テレパシーとまではいえないのでは。
最後に乱数発生装置に人間の意識が影響するという話。これは私もテレビで見たことがあるが、乱数発生機に他の電気器具の電磁波が影響したりすることは本当にないのだろうか?
「バーニングマン」の実験では、ここで使用された乱数発生機は他の電磁波の影響は受けない作りになっていたとされるが、裏返せば「他の発生器は影響を受けるの?」と思ってしまう。
乱数発生機が有意に振れたのはスティーブ・ジョブズが死んだときと東日本大震災が起こった日などと言われると、日本の2万人の死者とジョブズの死が同価値なのか?とちょっと嫌な気にもなってしまうけど、テレビやネットで大々的に報道された事件があると発生器が大きく振れていくので、これは「意識の超常作用」というより、単に電波の使用量がけた外れに大きくなったせいでは?という気がする。
つらつら書いたけど、どうもこの本、科学的な検証がちょっと不足しているのではないか。くり返すが、それを「ドキュメンタリーだから」と言うのは言い逃れだと思う。そこまで峻別している視聴者はそう多くはないだろうから。
取材先のイギリスの風景の長々とした描写やスタッフの個人的な感想が多くて、特に前半の文章は無駄が多い。客観的な事実だけでまとめれば新書サイズの分量に収まったのではないかと思う。
マーガム城の幽霊の目撃証言をパレイドリア効果(壁のシミなどを幽霊と見間違える)で説明したりしているが、何だか拍子抜けという気がする。シミュラークルとどう違うのか。
それにマーガム城の一例だけで一般化できるものではもちろんないし、目撃者が地元であった殺人事件を自分の錯覚と結びつけたのなら、目撃者のすべてが地元出身者なのか検証する必要もあっただろう。それに椅子がひとりでに動いたという現象はまったく検証していない。「検証番組ではなくドキュメンタリー」といえばそれまでだが、それは逃げだという気がする。
臨死体験の話では、臨死体験をした人物が幽体離脱をしたというところで、「妻が前かがみになって子供に何かしているのが見えた」と語るが、実際に妻は子供の顔にペイントしていたという。しかし妻子持ちの男性が妻子の夢や幻を見るのはごく自然なことだし、子供に対して母親が前かがみになるというのもありふれた光景で、これで「幽体離脱」とまで行くのはいかにも苦しいと思う。
生まれ変わりの子供の話も、アメリカのある少年が自分の前世は俳優だと主張し、少年と「前世」とされる1930年代の俳優との間には数多くの共通点があったとしているのだが、229項目の前世に関する発言のうち、161項目は調査できず、68項目は調査可能で、うち54項目が「一致」したとしているのだが、これもどうなのか。
一致したとされる項目のうち、「船で世界旅行した」「豪華客船できれいな女性と踊った」というのは1930年代の話としてはごくありふれたものだし、「友達の俳優がタバコのCМに出演した」というのも俳優ならよくある話だろう。「ブルーベリーが好き」「中華料理が好き」「猫が嫌い」「ピアノを持っていた」「家はレンガの壁」「メイドを雇っていた」「恋人をよく浜辺に連れて行った」という項目もそれこそありふれたもので、これなら一致する人はごまんといたはずだ。
そもそもこの8歳の少年は、「前世」とされる人物を特定するために両親がいろいろな人物のファイルを見せ続けており、いろいろな人間の情報があらかじめ刷り込まれているから、記憶が混乱して都合よく組み替えられた可能性もあるだろう。これをもって「驚くべき一致」というのは言い過ぎという気がするが、そもそも調査できなかった161項目はどうなっているのか。これがすべて外れたとしたら、「一致」した項目は4分の1以下で、それも「ブルーベリーが好き」云々のたぐいである。
日本の生まれ変わり少年の話ものせてあるが、この少年は3歳頃から自分の前世はエジンバラのイギリス人だと主張し、鉄道事故のニュースが流れた折に、(前世の)自分が死ぬ少し前にイギリスのサウスウォールでも鉄道事故があったと言って両親を驚かせたというのだが、これも少年の記憶違いではないのか。テレビのニュースで「1997年にイギリスのサウスウォールでも同様の鉄道事故がありましたが…」とアナウンサーがしゃべったのを聞いていただけとか。
少年の両親はわざわざエジンバラまで息子を連れて行ったという。滞在はたったの4日間だったが、「手掛かりは得られなかった」という。これも何だかおかしな話だと思う。前世の記憶を頼りに街を歩けば、前世の生家ぐらいにはたどり着けそうな気もするが。
ユリ・ゲラーの話はもう論外という感じもするが、わざわざ部屋のテーブルの上に並べて置いたスプーンを曲げて見せたというくだり、スプーンに仕込んでおいただけというのはスタッフも行く前からわかっていたという。ジェームズ・ランディがもう何十年も前にすべてトリックを解き明かしているのに、またイスラエルまで取材に行ってユリ・ゲラーに露出の機会を与えるというのは理解に苦しむ。
アメリカの「超能力スパイ」が写真を透視できるかという実験の話は比較的おもしろかった。しかし結果はそれこそ「かすりもしない」もので、ほとんど一枚も当たらなかったというのだが、さもありなんである。そもそもこの「超能力スパイ」、戦時中に「危ない!」とビビッときて仲間を連れて逃げ、命拾いしたことが何度もあったというのだが、単に用心深いだけではないのかと思う。
テレパシーをfMRIで検証したという章も、「テレパシー」で通じ合ったとされる被験者の脳の視覚野の活動には「同期現象」が起きたというのだが、これもどうなのか。197ページにそのグラフがのっているが、5分間のジグザクの波形が「ほぼ一致」というのはこじつけだろう。6回の点滅画像の区間のうち、ピッタリ波形が一致していると言えるのは3、5、6回目で、残りの1、2、4回目はむしろずれている。
そもそも脳の活動には周期性があるのではないか。脳活動の結果生じる微弱な電気を記録したものが脳波で、波というからには周期性があるから、5分間の間に弱まったり強まったりをくり返すのではないか。そのうち3回が「ほぼ一致」したぐらいで「テレパシー」というのもやはり誇張で、「1時間ほとんど点滅画像を見せなかったのに、そのうちランダムに時刻を選んで見せた1分間だけ、相手の脳波が飛び上がった」というぐらいでないと、テレパシーとまではいえないのでは。
最後に乱数発生装置に人間の意識が影響するという話。これは私もテレビで見たことがあるが、乱数発生機に他の電気器具の電磁波が影響したりすることは本当にないのだろうか?
「バーニングマン」の実験では、ここで使用された乱数発生機は他の電磁波の影響は受けない作りになっていたとされるが、裏返せば「他の発生器は影響を受けるの?」と思ってしまう。
乱数発生機が有意に振れたのはスティーブ・ジョブズが死んだときと東日本大震災が起こった日などと言われると、日本の2万人の死者とジョブズの死が同価値なのか?とちょっと嫌な気にもなってしまうけど、テレビやネットで大々的に報道された事件があると発生器が大きく振れていくので、これは「意識の超常作用」というより、単に電波の使用量がけた外れに大きくなったせいでは?という気がする。
つらつら書いたけど、どうもこの本、科学的な検証がちょっと不足しているのではないか。くり返すが、それを「ドキュメンタリーだから」と言うのは言い逃れだと思う。そこまで峻別している視聴者はそう多くはないだろうから。
2021-07-01 22:54
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